疾走
E-1 ZD50-200mm/F2.8-3.5

先ほどまで薄暗かった辺り一面も、時間と共にいつものように表情を変え始めている。
東の稜線から太陽が顔を出し、西側斜面の山肌を照らし始めていた。
僕はまだ朝日の恩恵も受けられず人気のない峠のドライブインに、火照った体のVFR750を静かに滑り込ませる。
“ヒュルルルル・・・、シュル、シュル、シュル・・・・・・”
先ほどまでの泣き叫ぶ轟とは裏腹に、大人しく低めのV4サウンドも小鳥のさえずりが響く冷えた空気の中に静かに溶け込もうとしている。


静けさの中で・・・
E-1 ZD50-200mm/F2.8-3.5

アイドリング状態でマシンを止めエンジンが落ち着くのをしばらく待つと、僕はイグニッションキーを左に回し鼓動を止めさせた。
「ふぅ~・・・・・・」
と、僕の口元からため息が漏れ出した。

無事たどり着いた安堵感と、何とも言えぬ達成感、そして充実感とが入り混じりながら・・・。
するとそれと共に、全身の筋肉からスーッと力が抜けていくのを感じる。
ゆっくりとマシンから降りると、レザースーツのギュギュっときしむ音と共に近くの自動販売機へと足を向けながら、いつものように温かいブラックコーヒーのボタンを押した。

バイクの近くに静かに腰を下ろすと、レザースーツ越しに冷えた空気を快く感じながら、まだ火照りの冷めやらない僕の体に一口の温かい液体が喉を伝う。
乾いた喉と胃袋にコーヒーの苦みばしった刺激と温もりが浸透する。
僕はその場のアスファルトに仰向けに寝転がりながら空を見上げた。すると僕の目の前には大きな青空が開けていた。
大きな空はふんわりとした雲達の肌に、柔らかい朝の日差しを当てさせながら、大きくて広い懐にプカリプカリと気ままに泳がせ遊ばせている。
そんなのどかで雄大な空を眺めていると、僕の体からまた一筋の吐息がまだ暖まりきらない外気にスーッと注がれていった。
夜明け
E-1 ZD14-54mm/F2.8-3.5

 まだ辺りは薄暗かった。
数羽のスズメのさえずりが聞こえ出す頃、東の空が琥珀色に輝きだしやがて周りの空気を青々と照らし出す。

“ブォォーン、ブォォーン、ブォォォォーン”

VFR750Fの真っ白なカウルからできるエアーの流れにスッポリとヘルメットを納め、シールド越しに展開する景色を横目にこの先に見えるミドルコーナーの入り口を凝視する。

“ギュゥゥゥーン、ギュゥゥゥーン”

と、加減速させるアクセルワークと伴に独特なエンジン音を奏で出す。
このVFR750Fはカムシャフトの駆動にベルトやチェーンではなくギヤトレーンを使用している。
アクセルを絞り込む度にガソリンタンク越しにカムギヤの鳴き叫ぶような独特な駆動音が耳に響き鼓膜を刺激する。
やや不甲斐無くこもりがちなV4サウンドに程よいスパイスとなって僕の闘争心をくすぐる。
ミドルコーナーを駆け抜けると今度は、その先にタイトな左ヘアピンコーナーがカウル越しの視界に飛び込んで来る。

マシンポジションをセンターライン内側ぎりぎりの位置に取りながら、ブレーキングポイント手前付近で体を起こしてコーナーに進入するラインを取る。
上半身でのエアーブレーキ効果を併用させながらフロントブレーキレバーを繊細且力強く握り始め、ブレーキングとシフトダウンとを繰り返す。
ギヤ-が小気味良くシフトダウンされる。

“ギュイィィーン・・・・、ギュイィィーン・・・・、ギュイィィィィーン・・・・”

リヤのタイヤがやり場の無いエネルギーに反応して路面にバタ突かせる。
右足のつま先をリヤブレーキペダルにかすかに当てると、何事も無かったかの様にリヤタイヤが路面捕らえ素直になる。
沈み込み立ち気味なフロントフォークを利して、ハングオンスタイルでスムースにマシンの左側に加重すると、スーッと素直にマシンが傾く。
路面側に突き出した左ひざのバンクセンサーがアスファルトを捕らえながらバンク角を一定に保つと、視線はコーナーやや奥のクリッピングポイントに向けた。
ガードレールと左肩が徐々に接近しだすと、マシンはクリッピングポイントを舐めるようにして捕らえて行った。


クリッピングポイント
E-1 ZD50-200mm/F2.8-3.5

クリッピングポイントをスムースに抜けると、僕は左ひざを徐々にマシンに沿わせニーグリップを利かせながらアクセルを明ける。
フロントフォークが伸び始めると、車体がグイッと起き始めた。
クラッチプレートを気遣いながらも、小気味良いアクセルワークでシフトアップと加速を繰り返す。
するとパワーを掛けられたリヤタイヤが路面をこれでもかと蹴り始め、VFRはぐんぐんと加速しだした。

ここの峠を上り詰める少し手前に小さなドライブインがたたずんでいる。
ここが僕の日課の終着点にしている所だ。

左前方の視界にその小さなドライブインが入ってきた。
僕はVFRのアクセルグリップを緩め、速度を落としながらそのドライブインのアクセスロードへとマシンを促していった。
その先にはまだひっそりと冷気に包まれたドライブインの駐車場が僕を待ちわびていた。



あとがき みたいなもの:
ホンダVFR50Fは僕にとって最初の大型バイクでした。
初代のVF750Fは、16インチタイヤと相まって怖いほどの切れ込みを見せるバイクのようでした。
僕のVFR750Fは、誰もが知るあの“白バイ”の基本形です。
いつも僕は白バイ隊員を尊敬の念で見ていました。だって、真夏にあの黒いレザースーツに温風ヒーターをしっかりと抱えながら走る様は、クールな眼差しとは裏腹に悲鳴をあげそうなくらいの暑さに耐える彼らに、とても敬意を表さずにはいられないからです。
まあ、救いなのはV4特有のフラットで厚みのあるトルク特性と直進安定性、そしてピカイチの乗り心地は当時このバイクが一番ではないかと思います。
ただ、ノーマル(純正)のタイヤでは、思うようにコーナー寝てくれませんでしたが・・・。

そして今でもあの時のブラックコーヒーの苦みばしった味は、僕の青春の思い出に染込んでいます。

 余談ですが、1枚目の写真でヘアピンコーナー立ち上がってくるバイク、このバイクは私も初めて(走っているのを)出会いました。
このバイクは、別冊モーターサイクリストの7月号で特集が組まれている長足バイクのひとつ、真っ赤なDUCATI・MULTISTRADA (ドゥカティ・ムルティストラーダ)です。写っているマシンは旧型の1000ccかも知れませんが、そこまでは確認できませんでした。
興味のあるバイクですがまさかこんなに早朝(AM6:30頃)ここで出会うとは思いもよりませんでした。
レザースーツにフルフェイスの出で立ちで、軽快にカメラを向ける私の前でコーナーリングビシ!っと決めて走って下さいました。(本当はあまりに唐突過ぎて肝心のバンク状態は撮れませんでしたが・・・)
私に対する朝の御褒美(?)に成りえる充分な走りでしたよ~(^o^)丿
モデル料払えなくてすみませ~ん。